2008年2月24日日曜日

写真をもとに絵を描く・・・肉眼で捉えた印象との「違い」

                  ボマルツォのスナップ   写真1


                  ボマルツォ(イタリア)  図1 

写真をもとに絵を描くということがあります。旅行して、絵にしたいモチーフが見つかったのはいいが、その場でじっくりスケッチしたり製作する余裕が無い時など、一つの資料として写真を活用することはとても便利です。また、スケッチ旅行をする余裕はないが、気に入った風景を絵に描きたいといったこともあります。後者の場合は、手に入れた写真から絵を描き起こす作業になります。
そうした場合に、「自分の肉眼で見た実景」と、「写真に撮った画像」とは、かなりの違いがあることを知っておくことが大事です。
上の図1は、私が去年(2007年10月)イタリアのボマルツォという町に滞在して現地でスケッチしたものに、後で彩色して仕上げた水彩画です。写真1は、そのスケッチを描き終えてからその場で撮った写真です。中央の赤茶の屋根をした塔のような建物を中心に、細長く丘の上まで続く町並みを描きたいと思ってスケッチを始めました。足場は、柵の無い岩の上で、転げ落ちたらひとたまりも無い場所でした。建物群と右手に見える森や草地の両方を描こうと欲張りすぎているところがあります。町並みを中央にして森の部分を少なくした方が良かったのかもしれません。

絵の良し悪しは別にして、私の肉眼には、中景の部分が写真と比べて大きく捉えられているのが、分かるでしょうか。私たちの眼は、「見たいと思うものを実景よりも大きく拡大してみる働きがある」ということに合点がいったのは、つい最近のことです。

イギリスの画家、アルウィン・クローショーの技法書を読んでいて、そのことが描かれている箇所をみつけました。以下、その部分を引用してみると・・・『アルウィンの楽しい水彩教室』1997年、P108

(前略)写真には独自の役割・特色がありますが、一方、中景から遠景を“平板化”して、小さく、つまらなく見せてしまう点に注意しなければなりません。写真と同じ景色を肉眼で見ると、私たちの眼は無意識に中景を拡大して、そこだけを周りと切り離して見ます。つまり、中景だけが視野いっぱいに広がるのです。ですから、写真を撮るときは、このことを心にとめておきましょう。いちばんいいのは、その風景を鉛筆でスケッチしてから写真を撮ることです。そうすると、肉眼で感じた印象とカメラがとらえたものとの違いがわかります。そして、その経験と知識が、のちの役に立つのです。

(中略)そして、写真が中景をどれくらい小さくしているか、にご注目を。望遠レンズを使っても、遠景の写真は平板化して、肉眼で見たときのようなインパクトがありません。肉眼は雑多な風景の中から自分が見たいと思う特定なものだけを見ることができますし、こう見えるといいという思いどおりに見ることができますが、カメラはそこにあるものを再現するだけです。

私は、今まで、このこと=“私たちの眼は無意識に中景を拡大して、そこだけを周りと切り離して見る”“肉眼は雑多な風景の中から自分が見たいと思う特定のものだけを見ることができる”ということを、絵を描くときに自覚していませんでした。ただ、描きたいと心を動かされた景色も、写真に撮って後で見て見ると、意外とつまらないということは、よくありました。

肉眼で見たものの印象が写真のそれと違うのは、私たちの眼の働きだけではないようにも思います。アルウィンも同じ本の中で書いている様に、その時の天候や時刻、寒暖、人気の無い所か雑踏の中かなど、野外でスケッチする時の条件が大きく影響する点もあるでしょう。何よりも写真ではそうした臨場感を再現するのが難しいでしょう。

野外での風景をスケッチする時に、この眼の働きと写真との関係を“意識的に使っていこう”と、今、考えています。                  

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