2009年7月31日金曜日

ポール・シニャックの水彩画に学ぶ

 サン=トロペ、港   1920年頃  ペン、褐色インク淡彩 32.8×42.8cm


2002年6月に山梨県立美術館で開催された「シニャック  海に吹く東風 水彩に見る新印象派」展を見る機会があった。シニャックの水彩画については、以前にゴッホ展の図録の中に収められているものを見たことがあった。
しかし、90点以上にのぼる水彩画の作品を一堂にしてみる機会は、滅多に無いのではないか。シニャックの水彩は、そのタッチと色彩の明るさに特別なものを感じる。あまり、国内では、見る機会が少ないのが残念である。
点描に拠る油彩画は有名であるが、彼の水彩画は、あまり知られていないのではないか。

この年の夏、彼の「展覧会図録」をもとにして、水彩画作品の模写をやってみた。上の作品には、褐色インク淡彩となっているが、当初、その意味が分からずに、現在手に入る褐色形のインクを使い、筆ペンで描いてみたが、今にして思うと、インクで線描した後、それを水筆のようなもので暈すという技法を使っているように思う。

下の模写は、インクとペンで描いた後に、水彩絵の具の褐色を使って彩色したもので、シニャックの描いた技法とは、違っているのが分かる。しかし、褐色だけの明暗で、描き分けようとしていることには、ちがいない。
いずれにしても、限られた色彩(褐色)で、その明暗だけで、対象とするものを描き分け、そうした水彩画をもとに油彩画を制作していたようだ。ただ、他の画家と違うのは、シニャックの場合は、そのようにして描いた水彩スケッチも、一つの水彩画として評価されていることである。そこに、かれの水彩画にかける可能性と魅力が隠されているように思う。


「サン=トロペ 港」の模写    ペン、褐色インク、透明水彩  16×21.5cm

パレットの上での混色を避け、隣り合う色彩の響き合いによる色彩表現を使ったことは、彼が点描という技法を取り入れた画家であったことから肯けるが、油彩による点描表現以上に、水彩におけるそれが、遺憾なく発揮されていたことが、その作品からはっきりと読み取れる。

今、改めて、シニャックの水彩画に学ぶところが多いことを感じている。