2008年2月29日金曜日

画材を選ぶ・・・ペンとインク、水彩でウォッシュ

              「トレビの泉の前で」(イタリア)      図3

私は、ペンとインクを使ってスケッチしたあと、水彩で色をおいて仕上げるという方法が気に入っています。そういう描き方で絵を描くとき、こだわっているのが、ペンと水彩紙の種類や規格です。

ペンの方は、以前、パイロット・ドローイングペン(油性)や、サクラ・ピグマグラフィック(水性)、ステッドラー・ピグメントライナー(油性)等の0.1~0.3ぐらいの細めのものを使っていました。水性のペンでも、乾いてから水彩絵の具を使えば滲んだりするようなことはありません。上の図3「トレビの泉の前で」は、2004年にイタリアのローマで鉛筆スケッチしたものを元に、ペンで描きなおしたものです。これは、鉛筆の下書きなしで、極細のペンを使って描いたあと、水彩で色をつけました。紙はキャンソンファインフェースを使用しました。

               「グランプラス」(ベルギー)       図4

図4は、細めのサインペンを使って、少し早描きしたスケッチに水彩を施したものです。こちらの方は、やや早描きしている分だけ、少し動的な雰囲気が表れているでしょうか。2005年に描いています。サインペンでしたので、紙は厚手のものを使っています。

このころから、いろいろな種類のペンを試しているうちに、「葦ペン」にもめぐり合い、それで描いた時期もあったのですが、戸外で使う便利さを考えて、万年筆タイプのペンを使うようになりました。プラチナ万年筆から出ているもので、黒のカーボンインク(カートリッジ)を使えるものがあったので、細描き用と太描き用の2本を携帯して使い分けていました。 “遠近感を線の太さで表現したい”と考えるようになったからです。

その後、セイラー万年筆長刀(なぎなた)研ぎコンコルドエンペラーというペンがあることを知りました。一本で、極細と極太の線が描ける万年筆で、耐水性のインクを入れて、スケッチの線描に使っています。

気に入った画材を見つける私の旅は、その後も続き、現在は、パイロット・レタリングペン(油性)2.0というペンを良く使います。このペンは、そのペン先に特徴があり、形が油性マジック(太字)の先に似ていて、円筒形でなくノミのような平たい形状をしています。このペンを使って、中目から荒目の紙にスケッチすると、「かすれる線」と「勢いのある太い線」が描けます。この線の太さの微妙な違いやかすれが、雰囲気のある線描を助けてくれるようになりました。使い慣れることが必要ですが、試してみる価値はあるように思います。

水彩紙の方ですが、ペンで描いたときにあまり引っ掛からない紙質のものがいいと思います。私のお勧めは、ケント紙です。できれば、四方を糊付けしたブロックのスケッチブックを使うと、水彩で紙が濡れても反り返らないので彩色がやりやすいのです。残念ながら、ブロックタイプのケント紙は手に入らないようです。時間と手間がかかりますが、水張りして使うのがいいですね。あと、ケント紙のように表面がキメ細やかな紙は、ウォッシュした絵の具が流れ、色と色が微妙に混じりあうところが、おもしろい効果を生みます。最後に、その例をお見せします。

横浜の金沢区、金沢八景にある小さな湾の風景です。小雨が降る中で、スケッチし彩色したものです。

BBケント紙を使用しました。

           「野島夕照・1」(横浜)              図5


             「野島夕照・2」(横浜)         図6

ペンの使い方としては、遠景は、やっくり軽やかタッチでペンを走らせ、前景ほど早く鋭いタッチで、ペンを使うといいかと思います。 

2008年2月25日月曜日

水彩紙のこと・・・カートリッジペーパー


         習作   遠くの木立(ダーマトによるスケッチ) 図2
 

いろいろな画材の中から自分の気に入ったものを探すのも、絵を描く楽しみの一つだと思う。

水彩紙の種類にもいろいろなものがあるが、目下の私の“お気に入り”は、「カートリッジペーパー」という紙だ。イギリスの画材メーカー“デイラー・ラウニー社”の製品で、日本ではクサカベというメーカーで扱っている商品だが、これが近々廃版になるという。無いものねだりで、最近、この紙を注文して手に入れた。

水彩紙の中でも、廃版になったものが他にもあると聞くが、私が知っているものでは、同じイギリス製の紙で、BBケント紙がある。ホルベインというメーカーから出ていた「BB KENT BLOCK」という商品もすでに発売中止になっている。これは、四隅を糊付けしたブロックタイプのもので、水張りしないで使えるので重宝していたのが、とても残念なことに、今ではネットショップでも手に入らないようだ。

替わりに、オリオンというメーカーから、「ボタニカルアート用BBケントブロック」というのが出ているが、こちらは同じブロックと名前は付くが、一辺だけ糊付けしたパッドタイプのスケッチブックだ。ただし、175gと紙厚は以前のものと同じ仕様になっている。サイズもB5,A4,F4とある。ケント紙も鉛筆スケッチや水彩に使ってみると、他の水彩紙とは違う使い心地がして楽しめる。

話を「カートリッジペーパー」にもどそう。わたしが何故この紙にこだわっているかと言うと、このところほとんどのスケッチに使っている「ダーマトグラフ」(三菱鉛筆から出ている油性鉛筆)との相性がとても良さそうだという理由からだ。もちろんどんな紙にも描く事はできるが、他の紙では出せないダーマトグラフ独特の発色や輝き、線の強弱、濃淡などがカートリッジペーパーでは表現できるように思う。ただし、紙色がやや薄い褐色系で、ホワイトワトソン紙などと比べると「紙の白地」を生かす上で、効果はどうかと思う。そんなに違いはないだろう。ただ、全体として落ち着いた感じの絵に仕上がるように思う。これから、しばらくは、この紙を試してみようと思っている。
サイズはA2だけで、「パッドタイプ」(130g)と「スパイラルタイプ」(150g)の2種類ある。わたしは、それをA4サイズか、その半分のサイズに切って使っている。手ごろなサイズのスケッチブックが手に入らないので仕方が無い。
図2は、アルウィン・クローショーの『楽しい油絵教室』の62ページにある「遠くの木立」という油彩画を見てダーマトでスケッチしたもの。

2008年2月24日日曜日

写真をもとに絵を描く・・・肉眼で捉えた印象との「違い」

                  ボマルツォのスナップ   写真1


                  ボマルツォ(イタリア)  図1 

写真をもとに絵を描くということがあります。旅行して、絵にしたいモチーフが見つかったのはいいが、その場でじっくりスケッチしたり製作する余裕が無い時など、一つの資料として写真を活用することはとても便利です。また、スケッチ旅行をする余裕はないが、気に入った風景を絵に描きたいといったこともあります。後者の場合は、手に入れた写真から絵を描き起こす作業になります。
そうした場合に、「自分の肉眼で見た実景」と、「写真に撮った画像」とは、かなりの違いがあることを知っておくことが大事です。
上の図1は、私が去年(2007年10月)イタリアのボマルツォという町に滞在して現地でスケッチしたものに、後で彩色して仕上げた水彩画です。写真1は、そのスケッチを描き終えてからその場で撮った写真です。中央の赤茶の屋根をした塔のような建物を中心に、細長く丘の上まで続く町並みを描きたいと思ってスケッチを始めました。足場は、柵の無い岩の上で、転げ落ちたらひとたまりも無い場所でした。建物群と右手に見える森や草地の両方を描こうと欲張りすぎているところがあります。町並みを中央にして森の部分を少なくした方が良かったのかもしれません。

絵の良し悪しは別にして、私の肉眼には、中景の部分が写真と比べて大きく捉えられているのが、分かるでしょうか。私たちの眼は、「見たいと思うものを実景よりも大きく拡大してみる働きがある」ということに合点がいったのは、つい最近のことです。

イギリスの画家、アルウィン・クローショーの技法書を読んでいて、そのことが描かれている箇所をみつけました。以下、その部分を引用してみると・・・『アルウィンの楽しい水彩教室』1997年、P108

(前略)写真には独自の役割・特色がありますが、一方、中景から遠景を“平板化”して、小さく、つまらなく見せてしまう点に注意しなければなりません。写真と同じ景色を肉眼で見ると、私たちの眼は無意識に中景を拡大して、そこだけを周りと切り離して見ます。つまり、中景だけが視野いっぱいに広がるのです。ですから、写真を撮るときは、このことを心にとめておきましょう。いちばんいいのは、その風景を鉛筆でスケッチしてから写真を撮ることです。そうすると、肉眼で感じた印象とカメラがとらえたものとの違いがわかります。そして、その経験と知識が、のちの役に立つのです。

(中略)そして、写真が中景をどれくらい小さくしているか、にご注目を。望遠レンズを使っても、遠景の写真は平板化して、肉眼で見たときのようなインパクトがありません。肉眼は雑多な風景の中から自分が見たいと思う特定なものだけを見ることができますし、こう見えるといいという思いどおりに見ることができますが、カメラはそこにあるものを再現するだけです。

私は、今まで、このこと=“私たちの眼は無意識に中景を拡大して、そこだけを周りと切り離して見る”“肉眼は雑多な風景の中から自分が見たいと思う特定のものだけを見ることができる”ということを、絵を描くときに自覚していませんでした。ただ、描きたいと心を動かされた景色も、写真に撮って後で見て見ると、意外とつまらないということは、よくありました。

肉眼で見たものの印象が写真のそれと違うのは、私たちの眼の働きだけではないようにも思います。アルウィンも同じ本の中で書いている様に、その時の天候や時刻、寒暖、人気の無い所か雑踏の中かなど、野外でスケッチする時の条件が大きく影響する点もあるでしょう。何よりも写真ではそうした臨場感を再現するのが難しいでしょう。

野外での風景をスケッチする時に、この眼の働きと写真との関係を“意識的に使っていこう”と、今、考えています。                  

2008年2月20日水曜日

絵画技法アラカルト・・・・誕生のお話・・・・


「絵画技法アラカルト」というタイトルで、新しいブログを立ち上げました。
20年ほど前から水彩画を「描いてきた」のですが、自分なりに学んできたことや、今かんがえていること、これからやろうとしていること等、絵画のジャンルにとらわれずに、思いつくままに「書いてみたい」と思っているからです。
自分のために「メモ」するような気分で、かなり思いつくままに書こうと思います。ですから、話題は、あちこちに飛んでしまって、まとまりのないものになりそうです。その時の興味・関心のあることに焦点をあてて、自分のために書き残しておくというものですから。今、これをご覧になってくださっている方の参考になるか全くわかりません。
そういうわけで、「これは何を書いているか、読んでみよう」という所だけ、ご覧になってください。
「アラカルト」とした訳は、“自分で自由に選んだ話題”というような意味合いです。
                                               本日は、ご挨拶まで。

2008.2.17.  P6 ダーマトグラフ  透明水彩  「冬の雑木林」